
至福のソファー「AGRA」はなぜ生まれたのか?を
開発者の山本さんにお伺いしました。
こんにちは、撮影チームの辻口です。
みなさんはリセノプロダクトのソファーである
「AGRA」をご存知でしょうか?
その名の通り「あぐら」がかけるほど
広々とした座面、ふかふかのクッションに
埋もれる座り心地は、まさに至福。
リセノで作られたソファーの中でも、
1番の人気を誇ります。
その魅力から、たくさんのお客さまに
お選びいただけているだけでなく、
リセノスタッフの中にも多くのファンがいるほど。
制作チームの岩部さんや、
メディアチームの大場さんもご愛用。
かくいう僕も、休憩時間に撮影用のAGRAに寝転んでは
「AGRAさいこ〜」と満喫しているわけです。
仕事の一環です。
そんな愛されソファーであるAGRAですが、
ある日、社内でこんな話を耳にしました。
「AGRAって、元々ああいう形じゃなかったんだよね」
「え!そうなんですか!?」
AGRAがリリースされたのは、2020年の2月。
僕がリセノに入社したのは、2021年の10月。
その話を聞いてからというもの、
リセノにいながら、リセノで最も愛されている
ソファーの誕生に立ち会えなかった悔しさが
ふつふつと湧いてくるのでした。
「知らないなら、ぜんぶ聞いてしまおう!」
AGRAは元々どんな形だったのか?
そもそも、AGRAはどこからやってきたのか?
そんな疑問を胸に、AGRAの生みの親である
「あの人」の元へ向かったのです。
Re:CENOインテリアの仕掛け人。
ブランドマネージャーの山本さん
我らが山本さん。おしゃれです。
AGRAの生みの親であり、
ブランドマネージャーの山本さん。
社の代表でありながら、現場に立ち、
多くのリセノプロダクトを手掛けてこられました。
AGRAの制作秘話が語られる中で、
アイデアのルーツや、今計画されている新しい
タイプのAGRA、リセノプロダクトのものづくり
などなど、ディープなお話を伺うことができました。
インテリアをデザインすることは、
暮らしをデザインすることだとおっしゃる山本さん。
リセノプロダクトの根幹にある熱い想いが、
AGRAにもたくさん詰め込まれていました。
リセノプロダクトの流れを汲む、
新しいソファー
辻口:
お忙しいところすみません!
AGRAのことが気になって仕方なかったので、
恐れ多くも、お時間をいただきました。
山本:
いえいえ!
開発資料も残っていたので、送っといたよ。
辻口:
貴重な資料をありがとうございます!
AGRAの開発経緯やコンセプトは、
山本さんが執筆されたマガジンでも
語られていますが、今日はもっと
裏側の部分までお伺いできればと思います。
山本:
理解しました。
よろしく!
辻口:
よろしくお願いします!
早速ですが、資料によるとプロダクトの
立ち上げは2018年の4月となっています。
少し驚きなのが、開発依頼の冒頭の一文です。
「新しく肘無しソファーのデザインを起こしました。
NOANAとfolkソファーをミックスし、
あぐらをかける奥行きと、圧迫感を減らした
低さをコンセプトにしたソファーです」
と書かれています。
出発点から「あぐら」というワードが登場し、この
時点で核となるコンセプトが正確に記されています。
山本:
AGRAの場合、コンセプトイメージが、
わりと最初から明確にあったんだよね。
辻口:
NOANAとfolkというのは、AGRAが作られる以前から
リセノで人気の高いソファーですが、この2つを
掛け合わせるという発想が出発点だったのでしょうか?
NOANAソファー
山本:
掛け合わせるというより、NOANAとfolkで
得た感触を踏まえて、新しいソファーを作ろう
というところかな。
NOANAは、リセノで一番最初に作られたソファーで。
当初は、包み込まれるような座り心地の
ソファーを作りたいという理想からスタート
したんだけど、これがなかなか難しくてね。
NOANAに関しては、しっかりとした座り心地の
ソファーも選択肢として必要だなということで、
比較的、芯のあるクッションを持つソファーとして
落ち着いたんだけども。
やっぱり、当初に思い描いていた、
理想とする柔らかい座り心地も追求していこうとなって、
2番目に作ったソファーがfolkなんだよね。
folkソファー
辻口:
確かに、NOANAとfolkは、好みに合わせて
選んでもらえるような、それぞれ座り心地の
違うソファーに仕上がっています。
山本:
うんうん。
理想の座り心地を目指す中で、
2つの素敵なソファーが出来上がった。
ものすごくこだわって2つのソファーを制作したから、
正直、ソファーを作りたいと思った時にもっていた
理想は、一旦叶ってしまった感じがあったんだよね。
辻口:
ちょっと燃え尽きたというか。
山本:
そうだね。
おかげさまで、NOANAもfolkもたくさんの
お客さまに支持してもらえて。
だから、次にソファーを作るならば、
NOANAとfolkの流れを汲んだような
ものにしようと。
そんなこんなで、AGRAに関してはいい感じに
肩の力が抜けた状態で製作に取り組めたかな。
「ソファーは背もたれ」
発想の転換から生まれた着地点
辻口:
なるほど...。
そうした出発点から、「あぐらをかけるほど
広い座面を持ったソファー」という方向性となった
決め手は何だったんでしょうか?
山本:
これは、何故かはわからないんだけど、
「ソファーの上であぐらをかきながらゲームをする」
という画が、ずっと頭の中にあったんだよね。
辻口:
AGRAのページには、実際に
そういう写真が載ってますよね。
山本:
そうそう、まさにこの、
濱ちゃんがゲームしてるイメージ。
だから、もうソファーが出来上がる前から、
「こういうカットを絶対撮ってね」
ってお願いしてたくらい笑
辻口:
山本さんには、最初からこの画が見えていたと...。
「床でくつろぐような過ごし心地」といった
インスピレーションは、山本さんの
実体験に基づくものなのでしょうか?
山本:
どうだろうね、自分では全然ゲームしないんだけど笑
でも、昔は実家にソファーなんて
上等なものはなかったから、
やっぱり床でくつろぐことが多かったよね。
そこから、実家も改装されてソファーも置かれたり
するんだけど、結局床に座って、ソファーを背もたれ
にして過ごす時間が長くて。
だから、AGRAを作ってる時も、
「ソファーは座るものじゃなくて、背もたれだから!」
ってスタッフに豪語したこともあったね笑
辻口:
ソファーは背もたれ!
とっても贅沢な使い方です笑
山本:
もちろん、それは冗談の一つなんだけど笑
でも、床でくつろぐリラックス感への憧れは確実に
あったし、そういう発想で作った方が、新しいものが
できるんじゃないかっていう予感はあった。
辻口:
「あぐらをかいてゲーム」「ソファーは背もたれ」
というエッセンスから、AGRAというものは
生まれたわけですね。
AGRAのファーストモデル、
確かに全然違いました。
AGRAのファーストサンプル・モデリング
辻口:
さて、AGRAのファーストサンプルの
モデリングが資料に添付されていますが...。
今とはかなり違った形です!
山本:
新しいものをと言いつつ、
意匠はかなりfolkを引きずってるよね笑
辻口:
確かに、生地の素材やカラーリングは
かなり近いところがあります。
山本:
デザインの部分で言うと、クッションはfolk、
フレームはNOANAというイメージで、
デザインをとりあえず起こしたんだけどね。
ファーストサンプルは、座面にfolkと同じウレタンの
クッションを使ってみたんだけど、座面が広い分、
柔らかくなりすぎてしまって。
みんなでいろんなウレタンやらフェザーやらを、
入れ替えては座りを何度も繰り返して、
最終的にはNOANAのクッションを採用したんだよね。
中身は近いけど、NOANAより座面が広いことで、
また違う感触の座り心地に仕上がって...。
耐圧を受け止めつつ、包み込まれるような
程よい沈み込み感で、これがすごく良かった。
辻口:
NOANAとfolkで得たノウハウがあったからこそ、
AGRAの座り心地は実現したと。
座面の座り心地もかなり試行錯誤されていますが、
今のAGRAと大きく違うポイントとして、
背クッションのスタイルがあげられると思います。
低い背もたれのフレームに、大きなクッションを
5つ並べるというのがAGRAの大きな特徴ですが、
こちらはどういった経緯で変更されたのでしょうか?
山本:
やっぱり座面を出来るだけ広く取りたかったから、
座面が制限されるような背クッションとか
ボルスター(肘掛のクッション)はちょっと違うかなと。
そういう中で、海外でよく見るような、クッションが
いっぱい並べられたような意匠のリラックス感のある
ソファーの感じがすごく良いなと思ったんだよね。
シンガポールの展示会に行った時にも、
そういうソファーが多く見受けられて。
そういう複数クッションのソファーにたくさん触れて、
良いと思った要素をミックスすることで、
今のAGRAのスタイルが確立されたというところかな。
辻口:
リラックス感を求めるAGRAには、
クッションを複数並べるのスタイルが
マッチしたということですね。
よってたかって作る。
リセノプロダクトのもの作り
辻口:
さて、セカンドサンプルのモデリングでは、
ほぼ今のAGARAの形に近づきました。
後にブラウンフレームやコーデュロイの生地といった
AGRAも登場するわけですが、セカンドサンプル
依頼の資料には、「フレームをナチュラルに」
「生地をシャビーシックなグレーに」といった
意匠変更の依頼が記載されています。
これはどういった経緯だったのでしょうか?
山本:
うーん、これは確か、スタッフの
誰かが提案してくれたんだったと思う。
ここで言っておきたいのは、
僕のものづくりは、デザインというより
プロデュースの領域の方が大きいんだよね。
意匠的なデザインをすごくやりたいと
思っているわけではないし、
できるともあまり思ってなくて。
辻口:
代表が自らプロダクトを企画し、デザインを
起こすというのは、珍しいケースな気がします。
山本:
他の会社のことはあまり知らないけれど、
普通はデザイナーが主導でやるんじゃないかな。
そうした方が尖ったものは出来るんだろうけどね。
逆に言うと、僕の場合は自分のデザインを
邪魔されたくないという発想がぜんぜん無いので。
だから、スタッフのみんなと協議して、
ヒントを得ながら柔軟に作っていくことができるし、
それがうちの強みだと思う。
辻口:
資料によると、フレームの角のカーブの具合や、
ねじ穴を隠すための木蓋の塗装など、意匠への
かなり細かい部分への指示も記載されています。
これも、スタッフ間でのディスカッションで
見えてきたことなのでしょうか?
山本:
そうそう。
もちろん、自分で気になったところもあるけど、
みんなの中から出てきた修正点も、たくさんある。
そうやって、細かい意匠の部分も
フォローし合えるから、デザインの部分にも
自信は持てるよね。
辻口:
山本さんが、家具を制作される際に
重要とされているポイントはなんでしょうか?
山本:
うーん、もちろん見た目も大事だけど、
やっぱり、日々の困りごとである
「負」を解消できるようなものを作ること。
もっと端的に言えば、
「それがあれば、素敵な暮らしが始まる」
というものを作りたい。
辻口:
「素敵な暮らし」から逆算して
インテリアを作る、ということでしょうか?
山本:
インテリアをデザインするということは、
「みんながどうやって暮らすかをデザインすること」
だと思うんだよね。
だからこそ、暮らしのスタイルが
それぞれ違うスタッフ達の意見を、
広く聞くことが僕にとっては重要で。
そうやって「よってたかって作る」のが、
うちの大きな特徴だよね笑
「作って終わり」ではなく、
提案するまでがプロダクト
辻口:
確かに、プロダクトのサンプルが届くと、
みんな集まってきて、ああでもないこうでもないと
議論が始まるのは、よく見かける光景です笑
山本:
うちのカルチャーの一つだよね。
ただ、リセノプロダクトを作ってきて
一つ気づいたことは、製品というのは、
ものが完成して終わりじゃないということなんだよね。
辻口:
それは、どういうことでしょうか?
山本:
これは、1つのケースだけど。
AGRAが完成して、
商品ページを作るための
撮影を行うわけだけど、その時に撮影チームの
中原君が娘ちゃんを連れてきてくれて。
そうしたら、娘ちゃんがソファーに飛び込んで
足をバタバタさせたり、AGRAの上で絵本を広げて
読み始めたり、それがすごく素敵だったんだよね。
僕はまだその時一人で暮らしていたから、
AGRAがお子さんのいる暮らしの中に置かれた時、
どんなことが起こるか想像してなかった。
でも、中原君が娘ちゃんを連れてきてくれたことで、
こういう使い方もあるんだって気付かされたよね。
辻口:
こちらの写真のことですね。
山本:
そう!
これこれ。
つまりは、どんなにいいものを作っても、
「これがあると、あなたの暮らしの中で
こんなに素敵なことが起こります」
ということを伝えられないと、意味がない。
この「開発」から「提案」までがプロダクトの一括り
であって、このプロセスを、インテリア大好きな
スタッフみんなであーだこーだ言いながら
やっているのが、うちの強みなわけです。
出来上がった後に気が付く、
プロダクトの魅力
AGRA カウチ
辻口:
ありがとうございます。
AGRAがなぜ支持されているのか、
分かった気がしました。
ちなみに、最初のAGRAがリリースされてから、
約1年後に「カウチ」「1.5P」タイプが
追加されました。
この2種類は、最初から構想があったのでしょうか?
AGRA 1.5P
山本:
構想はあったね。
企画経緯にも書いたとおり、
カウチは「縦」のくつろぎ、
1.5Pはコンパクトな部屋に、
という意図はもちろんあって。
もう一つは、サイズをモジュール化して、
それぞれのAGRAを繋げたり、L字に並べたり、
自由に組み合わせられたら素敵だなっていう構想だね。
辻口:
なるほど。
ただ、3Pタイプとは別のタイミングでの
リリースとなりました。
山本:
それは、単純に開発に時間が掛かったことと、
正直、リリースするかどうか迷ったんだよね。
AGRAは決して小さいソファではないから、
そういう使い方をしてくれる人いるのかな?
っていう疑問がずっとあって。
ちょっと自信のない中でリリースを決めたけど、
撮影チームが撮ってくれた写真を見たときに、
「この提案、やっぱり素敵かも」って思えた。
そしたら、この2つのAGRAも多くの
お客さまに支持してもらえてね。
辻口:
セットで選ばれるお客さまも多くて、
僕もびっくりしました。
山本:
さっきも言ったけど、やっぱりプロダクトって、
クリエイティブな部分を通して提案することまでが
1セットなんだよね。
そのプロセスの中で、
製品の魅力に自分たち自身、
しっかり気付いてあげるということが大事だね。
幻のコーナーAGRA、復活計画
辻口:
ちなみに、カウチ ・1.5Pと同じタイミングで、
「コーナータイプ」のAGRAも開発されて
いましたが、こちらは幻となりました。
山本:
これは、L字で配置する時に、
角を埋めるためのタイプだね。
まだ自信のなかったタイミングで、
さらにニッチなコーナーAGRAは、
流石にリリースに踏み込めなかった笑
でも実はこれ、今作り直してるんだよね。
辻口:
え!
そうなんですか!?
山本:
そうなのよ笑
今は背もたれが直角に配置されてるけど、
これをカーブにして、あーやこーやして...。
確定ではないけど、パワーアップして
復活させる予定です。
辻口:
めちゃくちゃ楽しみです!
他に幻となった仕様でいうと、真鍮のブランドタグを
つけるという構想も、資料によるとあったみたいで。
山本:
開発の時間の兼ね合いで実現できなかったけど、
それも実は、そのうちやろうと思ってるんだよね。
AGRAに限らず、すべての
リセノプロダクトに、意匠を邪魔しない
程度でブランドタグをつける感じ。
今、リセノのブランドロゴを刷新する計画を
進めているので、その後になるけどね。
心の宿ったプロダクトだけが生き残る。
辻口:
いつか、ブランドタグの入ったものが
お客さまのお手元に届き始めるわけですね。
今日はプロダクトの裏側について
かなりオープンにお話いただきましたが、
大丈夫でしょうか...?
山本:
そこは、全然大丈夫です。
僕も少し前までは、類似品が作られるのを
避けるのに、あまり社内の情報を深いところまで
発信しないようにしてたんだけど。
サイトのデザインとか、オリジナルの家具も
たくさん真似されて、販売されているのも見てきたし。
でも、これは「ほぼ日」のイトイさんの
受け売りなんだけど、外側だけ真似したような
「心」のない製品は支持されずに、
結局のところ淘汰されていくと思うんだよね。
辻口:
つまり、AGRAには心が宿っていると...?
山本:
AGRAに限らず、NOANAにもfolkにも、
すべてのリセノプロダクトには
心が宿っていると思ってます。
その理由は、今日話した通りだね。
スタッフみんなが、良いものを届けたいという
熱い思いで、1つのプロダクトを作り上げて提案する。
だから、仮に競合する製品が出てきたとしても、
きっとAGRAは長く愛してもらえると思います。
なので、今日は自信を持って、
いろいろ包み隠さずお話ししました。
辻口:
山本さん、ありがとうございます...!
今日は素敵なお話がたくさん聞けました。
必ず良い記事にします!
山本:
こちらこそ!
よろしくね〜。
AGRAの過去と未来をお届けしました。
AGRAプロダクトの裏側、いかがでしたでしょうか?
山本さんのインスピレーションからスタートし、
リセノスタッフの熱意で練り上げられたAGRA。
その全貌を知ることができて、
1人のAGRAファンとしても、とても満足です。
今回は過去のお話だけでなく、
未来へ繋がるお話も伺うことができました。
まだ見ぬコーナーAGRA、リセノプロダクトの
これからにご期待いただけますと嬉しいです。
最後までお付き合いいただきまして、
ありがとうございました!