公開日 2025年12月25日(木)
【くちぶえエッセイ】初めての挫折と、
ひとつぶの成長
ピアノのコンクール決勝の日、
娘は黒いワンピースの裾を
ぎゅっと握りしめていました。
結果は、落選。
帰りの車の中で、初めての悔し涙を
ぽろぽろこぼしていました。
色んなことを器用にこなしてきた娘だからこそ、
その涙はいつも以上に重く響くもの。
毎日の練習は、
実は順風満帆じゃ
ありませんでした。
うまく弾けない日が続き、涙が出たり、
「もうピアノ嫌い!」と駄々をこねた日も。
そして小さなスランプ。
それでも本番の一週間前、
急に音がまとまりはじめて、
「つかんだ瞬間」が娘の中に生まれました。
練習部屋に満ちた、あの誇らしい空気。
それでも届かない結果があることを
あの日、彼女は知りました。
「頑張ったのに悔しい」
その言葉は、私の胸をぎゅっと掴みました。
でも、悔しさを知った分だけ
世界は深くなる。
挫折は痛いけれど、確実に人を前に
進ませる力でもあります。
「子どもの未来は親の責任」
なんて言葉を聞くたびに、
ちょっと自信をなくしてしまうけれど、
私は「整えること」ならできる気がします。
部屋を、心を、暮らしを。
今のうちに、いろんなことに
触れさせてあげたい。
興味の芽が伸びる場所を
作ってあげたい。
そんなタイミングで、
幼稚園の頃の親友に久しぶりに
会う機会がありました。
再会した瞬間のふたりは、
まるで昔にタイムスリップしたかのよう。
性格の相性はあの頃のまま。
ふわっと空気が明るくなる再会でした。
2人とも背が伸びて
少しお姉さんの顔になっているのに、
笑い転げる姿は幼稚園のまま。
なんだか胸の奥がじんわり
温かくなりました。
大人への階段をのぼりながら、
無邪気さをそっと抱えているふたり。
これから、つらいことや悲しいことも
きっとあるはずです。
今回みたいに、努力が報われない日も。
だけど、親友がひとりいるだけで
景色は変わる。
助け合える関係でいてほしい。
私自身がそうやって
大人になってきたように。
暮らしの中で、成長の瞬間はほんの一瞬で、
でも確実に空気を変えていきます。
落選という現実はつらいけれど、
そこから立ち上がる姿が
部屋の灯りを少し優しくする。
挫折が、未来の種まきになる。
結果に届かなかったことで、
むしろ心のどこかがふっと軽くなったのか、
家で弾いたピアノの音は、
一段と伸びやかでした。
悔しさの奥にある静かな覚悟のような響き。
「次も頑張る」
そのひとことに、
またひとつ階段をのぼった
娘の背中が見えました。










maho
siippo